漱石の俳句3選
明治の文豪、夏目漱石は、俳人(俳句を読む人)でもありました。
ここでは、漱石の俳句のなかでも特に面白い3つを紹介します。
⒈乗りながら 馬の糞する 野菊哉
はい、1つ目から面白いですね。句のなかに「糞」が入っています。
俳句というとおじいちゃんが読む凡凡としたイメージですが、実はそんなことはなく、このように飄々とした笑いも混じってたりするものなんです。
この句は目線の移動が面白く、乗馬した人から馬、そして糞がたれて地面にうつり、最後は野菊に着地します。
⒉菫(すみれ)程な 小さき人に 生れたし
これも漱石っぽい句です。
菫に生まれかわりたいって30過ぎのおっさんが言うのはきついですよね。
漱石はこのようにロマンチスト系の作家でもありました。
ちなみにそれが一番現れているのは『夢十夜』の第一夜なので、是非見てみてください。夢で女の子に「百年、私の墓の傍に坐って待っていてください。きっと
逢いに来ますから」と言われたことを書いている話です。
⒊帰ろふと 泣かずに笑へ時鳥(ほととぎす)
はっきり言うと、この句はいい句ではないです。
それでもこれを選んだのは、俳句というものが当時どの様に読まれていたかがわかると思ったからです。
唐突ですが、ここでクイズです。
文学史上でほととぎすと言えば、一体誰のことでしょう?
正解は・・・。
正岡子規です。
正岡子規とは、明治時代の俳句の革命家のような存在で、漱石と同級生の親友です。
大学時代にはノートを貸し借りするほどの親友だったのですが、実は子規は、21歳の時に喀血して倒れます。
肺結核でした。
当時ほととぎすは肺結核の代名詞でした。ほととぎすは鳴くとき、赤い喉が見えるため、その様子がまるで血を吐いているようだというわけですね。子規もペンネームで、これもほととぎすと読みます。
凄まじいアダ名センス・・・。
さて、上に挙げた句は22歳の時に漱石が子規に送った句です。
ほととぎすは不如帰(帰るに如かず)とも書きますので、それを受けて、「そんなに帰ろう帰ろうと泣かないで、笑ったらどうだ、時鳥よ」と言っているわけですね。
ところで漱石は手紙の中で、「僕の家兄も今日吐血して病床にあり。かく時鳥」が多くてはさすが風流の某(それがし)も閉口の外なし」と書いています。半端じゃないブラックユーモアセンスですよね。
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